【読書レビュー】野球における体力トレーニングの基礎理論
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野球選手のトレーニングに関する本は世の中に数えきれないほど出版されていますが…「野球における体力トレーニングの基礎理論」という本は、ピッチャーのトレーニングに関する本の中では、個人的にNo.1だと思っている本になります。
私個人のトレーニングに関する知識の復習のため再読しました。
この本の概要
投手ならボールをリリースする瞬間、打者ならインパクトの瞬間、最大のパワー発揮が求められる。―では、そこで爆発的力発揮を可能にするためには何が必要なのか?
北海道日本ハム時代にダルビッシュ有、大谷翔平らが信頼を寄せた中垣征一郎氏が、運動とトレーニングの原理原則を考え続けて得た知見から徹底的に野球を考察する。
著者略歴
中垣 征一郎
1970年1月18日生まれ。東京都出身。高校から本格的に陸上に取り組み、中距離の選手として活躍。筑波大学体育専門学群を卒業後、小守スポーツマッサージ療院に4年間勤務し、その間に伊勢丹ラグビー部のフィジカルトレーナーに就任。
1997年に運動学を学ぶためにアメリカ・ユタ大学大学院へ留学。在学中からMLBニューヨーク・メッツの臨時トレーナーを務めた。
帰国後の2004年から10年まで北海道日本ハムファイターズのチーフトレーナー、12年はテキサス・レンジャーズでダルビッシュ有の専属トレーナーを務めた。13年から日本ハムに復帰し、17年からサンディエゴ・パドレスの応用スポーツ科学部長に就任。
読んでみて思ったこと
冒頭にも書いたのですが、野球選手のトレーニングについて書かれている本はこの本以外にもたくさんあります。
- 12月のオフシーズン中のトレーニング
- 2月のシーズン開幕前のトレーニング
- シーズン中の先発投手のトレーニング
- シーズン中のリリーフ投手のトレーニング
しかし上記のように、時期や起用法によって細かく細分化されたトレーニング計画例が記載されている本はこの本以外ありません。
「今日はどんなトレーニングをしようか?」と悩むことなく、この本に記載されているトレーニング計画をこなしていけばレベルアップは間違いないと思います。
2020年からオリックスの巡回トレーニングコーチに就任し、翌2021年から圧倒的な投手力でパリーグを3連覇させていますが、山本由伸投手をはじめ、宇田川優希投手や山下舜平大投手など150キロ後半の剛速球をバンバン投げる若い投手が毎年次々とオリックスに登場するのは、著者の影響がとても大きいと感じました。
Twitter上の声(他の人のレビュー)
私の感想だけでなく、他にもこの本を読んだ方の感想をTwitterで探してみました。
抜粋してご紹介します。
私のハイライト
最後に、個人的に特に印象に残った部分をいくつか抜粋します。
トレーニングは、心技体の開発を図るために意図的、計画的に行われる一連の活動である。しかし、あるひとつの活動で心技体の全てを開発することはできないので、最近では、トレーニングを大きく次の3つに分けてとらえている。
a.技術トレーニング:野球における専門的な技術の向上を目的としたトレーニング(習慣的に、技術練習または単に練習“practice”と呼ぶことが多い)
b.体力トレーニング:ある技術を獲得するために、あるいは傷害を予防するために、これらに直接的または間接的に関わる体力要素の向上を目的としたトレーニング
c.メンタルトレーニング:野球に必要な精神的能力の向上を目的としたトレーニング
上記のようにトレーニングのおもなねらいが心技体のいずれかにあったとしても、実際のトレーニングにおいては技術トレーニングのなかで体力や精神力の向上を図ったり、体力トレーニングのなかで技術や精神力の向上を図ったりしている。すなわち、これは技術トレーニング、これは体力トレーニングというような境界線を引くのではなく、相互に重なりあい、関与しあっていることを理解しておくことが大切である。
①オーバーロード(過負荷)の原則:普段の生活水準より強い負荷をかけて行うこと。体力の要素ごとに、トレーニング効果を適切に引き出す負荷のかけ方を工夫することが大切である。負荷(ロード)が強すぎるとオーバートレーニングになり心身にマイナスの影響を与えることになり、弱すぎると効果が得られなくなるからである。
②超(超過)回復の原則:トレーニングを行うと身体諸機能のレベルは低下するが、その後、時間とともに元のレベル以上に回復するので、次のトレーニングはこのタイミングを見計らいながら行うこと。
③特異性の原則:体力の各要素を高めるのに最も適した負荷の種類(タイプ)、強度・量・頻度、動き(運動様式)などを用いて行うこと。この原則は、競技スポーツにてとくに重要である。なかでも、トレーニングで用いる動きは重要である。厳しいトレーニングをしても、各スポーツに関連する動きを用いらなければ、競技力(パフォーマンス)の向上に結びつかない場合が多々みられるからである。
トレーニング管理における“強度と量”に関する誤解
多くの指導者は“質と量”でトレーニング管理を考えようとするが、ここには誤解があると考えられる。トレーニングは速度や重さなどの“強度”と、距離や反復回数などの“量”を設定することで計画される。指導者の多くはトレーニングを考える際に“強度”と“質”を混同しているのではないだろうか。トレーニングはオーバーロードの原則をふまえて“強度と量”を調整することによって管理されるものである。
走運動のトレーニング計画を立てる際の留意点
①1日の体力トレーニングのなかで、ショートスプリントとインターバル走など2種類以上の走運動によって負荷をかけることは効率的ではない。
②野球における戦術・技術トレーニングにおいて、多くのスプリントが行われていることを考慮する。
筋力トレーニングで用いる動きに留意する
爆発的な力の発揮に効率的な動き、かつ野球の動き(技術)と関連のある動きを重視することが大切である。
古くから野球における体力トレーニングは“走り込み”を中心に行われてきた。走ることは野球選手として非常に重要であるが、野球においては、試合中に全身が酸素不足により疲労困憊状態に陥るということはない。走ることを体力トレーニングの中心におくことによって、トレーニング全体が無酸素性持久力や有酸素性持久力の養成に大きく偏ることは、投手、野手に関わらず避けなければならない。
ウェイトトレーニング種目に関する共通の注意事項
多くの選手がより重たい重量を扱うことに意識が偏る。野球選手や多くのアスリートにとって、ウェイトトレーニングの最大の目的はより高重量を扱うことではない。目的とする合理的な動きでより大きな力を発揮し、より高い筋力を獲得することである。反動動作や非合理的な動作をともなうことによってより重い重量を扱うことは不可能ではないが、合理的な動きでより重たい重量を扱えるようになることがウェイトトレーニングの目的と言える。
スプリント系のトレーニングにおいては、量の設定に重点を置くのではなく強度に重点を置き、全力に近いスプリントの回数を徐々に増やし、高い速度での方向転換走を行うなど、実践への準備を考慮したトレーニング計画を組むべきであろう。